大判例

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東京高等裁判所 昭和26年(ネ)482号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

(事実)

控訴人の主張は、本件家屋は控訴人の所有であるが被控訴人は何ら正当の権原なくこれに居住し不法に占有しているから明渡を求めるというにある。これに対し被控訴人は、右家屋については昭和二十年四月二十八日控訴人の代理人古谷鶴吉との契約によつて代金三万五千円をもつてこれを買受けその所有権を取得したものであると主張したところ、控訴人は被控訴人の右抗弁を否認し、仮りに売買契約が成立したとしても、控訴人は内金一万円を受領したに過ぎず、所有権移転登記もなされずにある内終戦となり、その後物価は甚しく昂騰し、本件建物の価額も前記代金の数十倍に達した。かゝるインフレの過程は当事者の予見しえなかつたところであるから事情変更の原則により契約を解除しうるものである。控訴人は昭和二十一年二月七日頃前記受領に係る一万円を被控訴人に返還し契約を解除する旨意思表示をしたから右理由により売買契約は解除となつたものである旨その他数点の主張をして爭つた。原審は控訴人敗訴。

(判斷)

控訴審は、被控訴人主張の日にその主張の売買契約成立し、契約と同時に被控訴人は金一万円を支払い昭和二十年五、六月頃残金二万五千円をも支払つた事実を認定し、控訴人の再抗弁を排斥して控訴を棄却した。控訴人の前示事情変更に関する抗弁に対する判示は次の通りである。

売買契約成立当時の事情がその履行までの間に当事者の責に歸することのできない事由によつて当事者の予見することのできない程度に変更し、その結果本来の法律効果を発生させることが著しく不衡平となつた場合は、信義誠実の原則によつて当事者の一方は事情変更を理由として右契約を解除しうることは控訴人の所論のとおりである。そして終戦後の経済事情の激変に伴つて一般に不動産の価格が本件売買契約当時に比較して著しく昂騰したことは当裁判所に顯著な事実であるから本件家屋の現在の価格が前記売買代金に比して著しく高価となつたことは容易に推知しえられる。そして右は契約当時の事情に著しい変更を来たしたものというべきであり、右事情の変更は控訴人の予見しまたは予見することのえないものであつたことも推認せられ、しかもこの事情の変更は控訴人の責に歸することのできない事由によつて生じたものであることも明らかである。しかしながら前記認定のように本件売買契約の成立した昭和二十年四月二十八日以降被控訴人がその代金の支払を完了し控訴人において本件建物の所有権移転登記義務の生じた同年五、六月頃までの間に、右建物の所在地方において建物等の価格が急激に昂騰したことを認めるに足りる証拠はなく、むしろその価格の昂騰したのは終戦以後の現象であるから本件建物の価格の昂騰は控訴人においてその登記義務の履行を遲滯している間に生じた事情の変更であるというべきである。したがつてもしこの場合に控訴人においてさきに被控訴人から受領した代金を返還し、事情変更を理由として右契約を解除しうるものとすれば、控訴人が遲滯なくその債務の履行を完了していたならば事情の変更を理由として契約の解除をすることができなかつたにもかゝわらずその債務の履行を遲滯していたがために、事情変更の利益を受けられることになつて、かえつて衡平の観念に戻り、信義誠実の原則にも反する結果を生することが明白であるから右事情変更による契約解除の意思表示はその効力を生じないものといわなければならない。よつて控訴人の右主張もこれを採用することができない。

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